問題
飼い犬が犬の絵に向かって吠え、男は目に涙を浮かべた。それは喜びの涙。
彼の腕に収まっている飼い犬は、特に喜びはしなかったけれど。何があったのか。
答え
男は飼い犬を腕に抱き、ある画家の個展を訪れていた。
そこである一枚の絵に目を奪われた。
老犬の、絵。
男がその青春時代を共に過ごし、成人すると共に死んでしまった愛犬がそこには描かれていた。
亡くなった当時の姿で。
彼は混乱した。
画家とは殆ど初対面であり、無論犬をモデルとするのを許可した覚えなどなかったからだ。
そのことを画家に訊ねようと絵から離れたその時、腕の中で眠っていた飼い犬が絵に向かって吠え出した。
まるで、近所の犬に吠え掛かる時のように。
「この絵にはあの犬の魂が入っている」
そう確信した男は涙ぐみ、その絵を購入した。
後日談となるが、画家が犬の絵を描いたのは犬の死期と重なり、なおかつモデルは特になかったそうだ。
今の飼い犬は日課のように壁の絵に向かって吠えている。